付き合ってない男女の話


 外に出ると空気がむっと暑かった。まだ暑いね、と私は呟く。あなたはそれに返事をせず、すごかったね、と感極まった様子でささやいた。
「夏の星もいいけどね、やっぱり僕は冬の星が好きだな」
 ひとりで頷くあなたのこめかみに汗が光っているのを見つけ、私はそっと手で扇ぐ。ん、とあなたは不思議そうに私を見下ろした。
「暑そうだったから」
 ありがとう、と真面目に頷くあなたから目線を外す。冬になったら山に行きたいんだ、晴れた夜は空気が澄んでてね……。あなたの声を聞くともなく聞きながら、私も一緒に行きたいと言っても大丈夫だろうか、と思う。星になんか興味は無かった。けれど放っておいたらこの人はひとりで行くだろうし、それでも一緒に行きたいと言って断りはしないだろうと思った。
「聞いてる?」
「ううん」
「そうだろうね」
 あなたはじろりと私を見た。ははは、と笑い、なんか食べる、と訊ねる。あ、駅前にファミレスあったよ、と返事をするあなたを見る。じゃあそこにしようと私は呟いた。冬になって春になって、きっとすぐだから早くしないとな、と思う。ぼんやり空を見上げると、遠くに夏の星がうっすら滲んでいた。