どうかこの夜が
夜は音が冴える。晴れた日はとくに。吹き終えてケースに仕舞い、ベンチに座ってギターケースを抱えるあいつを振り返った。
「上手になったよな」
私が微笑んで手を上げると、その手を軽く叩く。あいつがステージに上がり、ギターを準備するのを眺める。ベンチに腰かけると、座っていた部分が温かかった。
目をつむり、ギターの音に身を委ねる。音楽をやっているあいつが好き。あいつは音楽をやっている私が好き。腿の下に冷えた自分の手を入れる。ギターの音が止まったのを確認し、私はそっと目を開ける。
「冴えてるね」
「ん」
少しはにかんで頷く。寒いから帰ろう、と言うと、うん、と頷いた。
夜は音が冴える。晴れた日はとくに。明日も晴れたらいい、と思う。明日は寒くなかったらいい。少し離れた隣を歩くあいつを窺うと、ぼんやりギターケースを見つめていた。