逃避行


 表面に付いている砂糖が溶けると申し訳程度にいちごの味がする。溶けるまで待たずに噛む時もある。蝉の声が降り注ぎ、前の方を歩くあなたの影が濃く伸びていた。
「暑いんですけど」
 声を出すとあなたが振り返る。なんか飲むー、と返事をするあなたから目線を外し、私は小走りに駆け寄る。いらない、と小さく言い、左手をそっと握る。あなたの手も汗ばんでいた。
「私にもちょうだい」
 ポケットからグミの袋を取り出し、あなたの手のひらに落とす。凝縮された水滴みたいなそれをあなたは口に放り込む。
「ぬるいね」
「うん」
 もう少しで海だから、と呟いたあなたに、ふん、と返事をする。かすかに薄くなったあなたの影を見下ろす。右手を握り直し、私は静かに前を向いた。