人さらい


 窓の外をぼんやり眺める。うっすら光が見えていて、ずいぶん東に来たのだと分かる。そっと隣を窺うと、あなたが目を覚ましていた。
「……着いた?」
「まだ」
 声は想像より切羽詰まって響いた。さして気にする様子もなくあなたは目蓋を閉じる。掛布を肩まで持ち上げると、鬱陶しそうに向こうをむいた。
「お腹すいた」
 寝起きの子どもの声であなたは言う。何か食べる、と言いポーチを開ける。駅で買ったチョコレートがあったので、それをあなたの手のひらに載せる。少し眺めてからあなたはちゃんと口に運んだ。
 帰りたいなとぽつりと呟く。私はそれに返事をせずに、何食べようか、と囁いた。ぼんやり明るくなる高速道路を、私は他人事のような気持ちで眺めた。