冬の夕方
壁に埋まった水槽を指先でなぞる。人差し指の方向に魚が泳ぐ。鈍く光る銀色と体に入った赤い線。視線を感じて振り返ると、あなたがマグカップを差し出していた。
「ありがとう」
あなたはかすかに笑って手を振った。カウンターに戻る背中を眺め、手のひらの中のあたたかな黒に目を落とす。窓の外はうすぼんやりと曇っていた。
店内に客はまばらで、この水槽どこで買ったの、とカウンターに向かってたずねる。内緒、と背を向けたまま呟くあなたに、ちぇ、と返事をする。
「彼氏できた?」
「ううん」
ふーん、と呟き、マグカップに口を付ける。濃く出過ぎていて苦かった。
「なんか、このままでもいいかなって」
「素敵なお店だもんね」
うん、と小さく返事をするあなたの背を再び見つめる。喫茶店のドアが開き、若い男女が入ってくる。開いてますか、とたずねる男の子に、開いてますよ、お好きな席へどうぞ、とあなたは微笑んだ。