女の喉仏


 ベランダで食べよう、と言うので椅子を持って出た。ぼくは虫が寄ってきそうで嫌だなぁと思ったが、あなたは意に介さないようだった。うきうきとシーツを取り込み、唐揚げとサラダの皿を運ぶ。
「どこに置くの」
 あなたは下を向いてすこし考える。抱えて食べる、と頷き、ベランダの椅子にさっさと座る。ぼくもガラス戸を引いてベランダに出る。薄紫の空に星が滲んでいた。
「明日は晴れるって」
 あなたがコップに口をつける。うごめく喉仏を見つめながら、ふうん、とぼくは返事をする。
「引っ越し、楽そうだね」
「うん」
 頷き、自分の手元を見つめる。あなたの膝にある唐揚げに手を伸ばそうかと思ってやめた。食べる、とあなたが唐揚げを差し出す。受け取って口に運ぶと、懐かしい醤油の味がした。
「元気で」
「うん」
 あなたが頷く。サラダをもそもそと食べているあなたの表情は窺えなかった。ぼくはベランダの向こうに目をやる。夏の夜が静かに近付いていた。