「日曜日、お米買いに行きたい」
 本を読んでいる彼の後ろから顔を出す。うん、と生返事する彼を見つめ、手元の本を覗き込む。
「何の本読んでるの」
「内緒」
 本を隠そうともしない彼に私は不満を覚える。黙り込むと、みはる、と息を漏らすようにして私の名を呼ぶ。
「来年の事を言うと鬼が笑うよ」
 なにそれ、と私は呟く。彼が何を考えて言葉を発しているのかよくわからないことがある。私は彼の首の後ろのあたりを触る。なんだか皮膚が硬いような気がした。
「凝ってますよ」
 言い、私は彼の肩を親指で押す。ふふ、と小さく笑って身を動かす彼に抱きつき、両肩を揉む。
「みはる」
 呆れたような彼の声色が好きだ。お米を買いたいなんて口実で、私は日曜日の彼を独り占めしたくてたまらない。本当はもうここから出したくないけど、それはさすがに良くないので日曜日だけで我慢する。彼の皮膚に食い込んだ親指の先がだんだん白くなる。痛いよ、と笑う彼を想像して私は満足する。
「いつでも僕は、みはるを独り占めする口実を探しているんだ」
 彼が振り返る。捕まえた獲物に関心を失った獣の瞳。笑みをうかべた口元から白い歯が覗いていた。
「嘘をつかなくていいんだよ」
 私はいつものように、完全に支配される。何を考えているのかわからないのに、彼の声は天の啓示だった。日曜日が本当に来るのか、私にはもうわからない。