英雄


 あなたのどこが好きかって、ふくらはぎか刈り上げ、夏の夕暮れに浴衣を着た後ろ姿。白いものが混じり始めた頭髪、眼鏡を持ち上げた時の眉間に寄る皺。
「すこし涼しくなりましたね」
 前を歩いているあなたが、ええ、と静かに返事をする。そっと歩調を緩め、私の方を振り返る。
「よい季節です」
 目尻に皺を寄せて穏やかに笑う。私は目を逸らして下を向き、あなたのふくらはぎの形を眺める。手拭いを取り出し、いつでも差し出せるようにしておく。あなたが振り返るより前に。
「色々なことがありました」
 目を上げてあなたの横顔を盗み見たい衝動を、私はぎりぎりのところで押しとどめる。あなたは自分を、死にぞこないなのだと言う。だから私は、あなたを好きなのだと思う。