こいかもしれない


 たとえば、面倒くさがりなわたしが毎日ちゃんとうすく化粧をして学校に行くのも、自室で膝を抱えたまま朝を迎えてしまう日があることも、真知、と呼びかけるその声の響きに一喜一憂するのも、もしかしたら恋かもしれない、と思った。わたしは一目惚れというものを信じていないわけではないがもちろん何もないところからその考えが浮かんできたわけではなく、波のようにたゆたっているいくつもの出来事の中からわたしはその結論を選び取ったのだ。
「恋?」
 ゆかりは怪訝そうにわたしを見た。いきなり何言い出すのかと思った、と続ける。
「真知が恋ねえ」
 夕暮れに近付いていく晴れた空、ぼんやり街の明かりを見つめているゆかりの横顔。今この瞬間、ゆかりは何を思っているのだろう。
「まあいいんじゃない?」
 ゆかりは言った。ややあってそっけなく響いたことを気にしたのか、顔を寄せて、それで、誰なの?とわたしに尋ねた。わたしは大げさに、えーっ、と言ってみせる。
「えー、月高の人?」
 にわかに楽しくなってきたらしくゆかりの声が弾む。じゃあ、ヒントだよ、とわたしは笑う。
「ヒント1、ゆかりの言ったとおり月高の人です」
 うんうん、とゆかりは頷いた。今この子は全く見当違いなことを考えているのだろう、とわたしは思う。
「ヒント2、同じ学年です」
 うーん、とゆかりは唸った。確実に答えに近付いているのに、ゆかりはまだわからない。
「じゃあね、最後のヒント。わたしたちの寮の人です」
 ゆかりの笑顔が一瞬固まり、それから、ええ?と頭を抱えた。わたしはうすく微笑む。わたしがその人の名前を言った時、ゆかりが笑い飛ばしてくれるか二度と口をきいてくれなくなるかわたしにはわからなかった。