似た者同士


 呼吸をひとつしてドアをノックする。少しして静かにドアが開けられた。彼女は思っていたより元気そうだった。面食らって黙り込むと、何の用、と単純な疑問を問いかける口調でたずねる。
「いや……どうしてるか、と思って」
「……気になったってこと?」
 頷くと、彼女はふっと笑った。全くその通りだった。けれど悟られたのだと分かると居心地が悪かった。
「お腹が空いたわ、入って」
 彼女の目線は私の左手の紙袋にあった。ああ、と返事をして私は紙袋から夜食を取り出した。

 彼女の部屋は消毒液のような匂いがした。明かりを点け、ベッドに座るように促す。サンドイッチを手渡すと、受け取ってじっと見つめた。
「きみが作ったの」
「ああ」
「料理するのね」
 私はそっと隣に腰掛けた彼女を窺う。義手の銀色がいやに目に付いた。
「……痛くないか」
「痛い、そろそろ薬を飲む時間」
 サンドイッチを囓り、彼女は静かに呟く。どう返事をしていいか分からず自分のサンドイッチに目を落とす。口に運ぶと、パンが少しぱさついている気がした。
「その……何かあったら、言ってほしい」
「君にはFACからの任務があるものね」
 私は押し黙った。何かの指示で今ここに来たのではないことを、どう説明すれば彼女に理解してもらえるのか分からなかった。右手にそっと手を重ねる。彼女がちらりと私を窺う気配を感じた。
「私はあなたを諦めない」
 呟いたつもりだったのに重々しく響いて私は狼狽える。下を向くと自分の頼りないつま先が目に入った。
しばらくして、そう、優しいのね、と返事をする。彼女の顔を見ることはできなかった。彼女が小さく息をついたのが分かり、私は自分の左手を見つめる。
「……きみぐらいの頃、私はひとりで何でもできると思ってたわ」
 静かな彼女の声を聞きながら、私は涙ぐみそうになりあわてて上を向く。ミラーに映った後部座席の彼女を思い出す。すべての人は救えないと言った彼女の、諦めたような表情。
「簡単には死なないんでしょう、局長」
 耳に届く声はもう真剣な声だった。ああ、と返事をしてサンドイッチの残りを飲み下す。左手から伝わる体温を感じながら、私はそっと背筋を伸ばした。