アイン先生のいない世界
庭に出ると日が射していた。眩しさに顔をしかめながら噴水を眺める。縁に腰掛けていたアンが立ち上がり、小さく手を振った。
「場所、わかりました?」
ああ、とマリヤは頷く。FACの制服を着ているせいか、久しぶりに見るアンはどことなく違う人間のように見えた。
「何か食べたいものはあるか」
「落ち着ける場所なら、何もなくても」
マリヤは黙ってアンの隣に腰掛ける。お互いに暇の無い身であることは分かっていた。
「アインの骨はシンジケートに埋めた、私はご両親のもとに送ることを考えたが本人の希望だ」
そうですか、とアンは静かに呟く。伏せられた睫毛を眺める。表情を窺うことはできず、そっと目線を手元に戻した。
「彼女の書き残したカルテや資料はFACが保管している、以前も伝えた内容ですまないが」
マリヤは息をつき、アンの返事を待った。遠くにある噴水の水しぶきが日に照らされ、金色にきらめいた。
「……大丈夫か」
ええ、とアンは頷く。その声は意外なほど穏やかだった。
「FACが医学校を新設した話、ちゃんと私の耳にも届いています」
そうか、と小さく笑う。彼女たちはずっと前からお互いの死を肯定しているのだ、と思った。
日が翳る。不意にアンが立ち上がり、夕刻から会議があるんでした、とマリヤを見下ろす。そうかと頷いてマリヤも立ち上がる。これが彼女の気遣いなのか、本当に立ち去ってひとりになりたいのか分からなかった。歩き始めたアンの背を見つめ、マリヤも静かに足を踏み出した。