自分より相手が気になる同士


 アインの部屋は静かだ。物も少ないし音も無い。規則正しく聞こえていた呼吸が止まり、起きたんだな、と思う。
「……朝?」
「まだ眠っていていい」
 そっと彼女の髪を梳く。しばらくして寝息が聞こえ、彼女がきちんと眠りに落ちたことを知る。掛布から出た自分の足先を眺め、マリヤは目を伏せた。

 あまり寝ないようだった。もう何回か彼女の部屋で夜を過ごしていた。初めはマリヤが帰りたくないのだったが、二回目の夜にまどろんでいると彼女がマリヤの左腕を掴んだ。力の強さに驚いてアインの方を向く。彼女は眠っていた。

 これが責任感なのか、他の何かなのかマリヤにはわからない。けれど帰りたくないふりをすればアインはそれを察して何も言わない。夜が更ける頃に電灯を消すだけだ。最初はマリヤがソファに移動していたが、マリヤがベッドから下りなければ彼女もそのままベッドで眠るのだった。
 人と眠ることに慣れているのかとたずねたことがある。そういう訳ではない、と彼女は向こうをむいて呟いた。
「……でも、きみは温かいのね」
 だからマリヤは彼女の髪を梳くようになった。太腿のあたりに触れている彼女は温かかった。

 悪い夢を見る日とそうでない日があるようだった。そうでない日も眠りが浅く、夢を見ている日は短く眠っては目を覚ました。マリヤも起きていれば少し会話をして、しばらくすると眠るのが常だった。
「睡眠はずっとこうなのか」
 ええ、と彼女は躊躇いなく答えた。
「睡眠薬を増やそうかと考えているところ」
 マリヤは何も言えず彼女の肩のあたりに触れた。彼女は不思議なものを見るような目でマリヤを見た。帰りたくないふりをしていることが、そのうちに見透かされてしまいそうな気がした。

 カーテンの向こうに日が昇る。朝だ、と呟き、アインの右腕に触れる。半身を起こし、テーブルに置いてあった眼鏡を掛ける。
「きみは眠ったの」
「ああ、よく眠った」
 そう、と返事をして彼女はベッドから下りる。マリヤもそっとベッドから下り、彼女の部屋から出る。皆が起き出す前に部屋に戻らなければならない。硬くなった身体を伸ばし、マリヤは静かに歩き出した。