たとえばこんな一瞬だって

「真知、あんたこないだもそれ食べてなかった?」
私はレンジで温められたであろうそのカレーを見た。真知はスプーンを持って、今にも食べようというところだった。一瞬きょとんとして、それからぼんやりと首を傾げる。
「そうだっけ」
そうだっけ、ってあんたねぇ。私は言葉を飲み込んで、じゃあ昨日は何食べた?と尋ねた。
「カレー」
「おとといは?」
「カレーかなぁ」
「その前」
「……カレー」
私がよほど白い目で見ていたのかやっと自分のしたことに気付いたのか、真知は「ああ」と言って目を見開いた。
「あっでも、特別カレーが好きなわけじゃないよ」
たまたまっていうかさ、と真知は見当違いな弁解を始める。わかっている。真知はただ、何もかもが億劫なだけなのだ。

ということがあったのが一週間前である。
「私もそんな料理うまくないから期待しないでよ」
私は薄ピンク色のエプロンを腰に巻いて寮の台所に立っている。荒垣先輩には遠く及ばずとも、レトルトカレーよりはましだろう。真知は椅子に腰かけ、大人しく待っていた。
「楽しみだなー、ゆかりの手料理」
両手で頬杖をついてにこにこと笑いながら真知は言う。私は眉を持ち上げて、仕方ないんだからという顔をつくってみせた。

途中、荒垣先輩の心配そうな目線を感じたり寄ってきた順平を追い払ったりしたけれど、なんとか完成した。
「いただきます」
真知は目を輝かせた。少し遅くなってしまったから、お腹が空いているのだろう。なんだか照れくさくて、どうぞめしあがれ、と私は茶化して言った。
「……おいしい!」
少し驚いて、それからにっこり笑って真知は言った。私は真知の満面の笑顔を真正面から見る。すこし、どきどきした。え、すごい料理上手じゃん、と真知は続ける。
「あんたが今までレトルトばっかり食べてたからなの」
私はどきどきと頬の赤みを悟られないように横を向いた。真知の笑顔に、私は弱い。当の本人はそんなこと気付かずに、「すごーい」「おいしい」を連発しながらにこにこしている。全くもう、いつまでも面倒見ないっての、私は。胸の奥が変にあたたかい気持ちで、私は幸せそうな真知を眺めていた。

 


 

生きること以外にエネルギーを使いたくない系