女友達

ほら岳羽さんって、桜井さんと仲いいじゃん。その男子はしどろもどろになりながら言った。そうだけど?と帰り支度をしながら軽く睨みつけると、男子が後ずさりする。そのまま向かい合う格好になっていると、その真知が私の席に来た。
「ゆかり、帰ろう」
真知は微笑んで言った。その男子の方をちらりと見たけれどすぐに私の方に向き直る。私も真知を見て、うん、帰ろうか、と言った。鞄を持って歩きはじめようとする。
「……そんなんだからレズって言われるんだよ」
舌打ちまじりに言ったその男子の声を、真知が聞いていなければいいと思った。

「あの男子、誰?」
喫茶店の椅子に座って真知は言った。私はレモン入りの紅茶を啜る。
「隣のクラスなんだって」
ふうん、と真知は頷き、ゆかりと仲いいの?と言った。
「まさか、初対面」
目を丸くした真知を呆れ顔で見て、しかも、あんた狙い、と私は付け足した。
「ええー」
真知は言ったが、さほど驚いていないのだろうと私は思った。私に真知のこと教えてほしいんだってさ、と言って私は頬杖をつく。
「でも何も言わないでおいた」
真知は声をたてて笑った。そっか、ありがとう。私は自分の判断が正しかったことを知り、内心すこしほっとした。
「部活とか委員会とかでしんどいし……恋人は今はいいかな」
「あ、私も」
「それにゆかりといた方が楽しいし」
ねー、と言いながら、私の胸がちくりと痛んだ。そんなんだからレズって言われるんだよ、と男子の言葉が甦る。私はいてもたってもいられず、ねえ、と言った。
「変な話なんだけどさ、私たちがレズって言われてるって」
真知は穏やかに笑いながら、知ってる、と言った。世界に、周りに興味がありませんみたいな顔をして、そういうところは敏感なのだ、この子は――。私は見たことも触れたこともない、それどころか触れてはいけない自分の中の感情が頭をもたげるのを感じた。
「でもわたし、ゆかりならいいよ」
とか言ってー、と真知は笑った。やだー、と私は一緒に笑ったが、私の笑い声は一瞬遅れていた。
「勘弁してよ」
無意識、というのが一番厄介だ。ほんとうに、勘弁してよ。私は目の前の女の子の魅力のようなものとさっきの自分の中の説明のつかない感情をはかりにかけながら、まだこの子と友達で、一緒にいられることに感謝するのだった。

 


 

学力2(できなくはない)・魅力4(校内のアイドル)くらい