やわらかな嘘

「私ね、お父さんがいなくて、だから真知に親近感湧いちゃって」
そう言ったゆかりの声は意外なほど穏やかだった。がちゃがちゃした喫茶店の中、ぬるくなってしまったコーヒー。わたしはこの友達を嫌いではないと思っていたし、わたしを信頼して話してくれたことも嬉しかった。けれどわたしは両親がいなくても特に寂しいと思ったことはなくて、父親の不在を少なからず寂しく思っているであろうゆかりに対してほんの少しの罪悪感を感じた。わたしなんかで、いいのだろうか。
「そっか」
わたしはゆかりと同じように穏やかに頷いた。ゆかりはレモン入りの紅茶を啜る。
両親がいなくて困ったことはない。お金のことや住む場所や身の回りのことは親戚がしてくれたし、人はひとりひとり孤独なものだとわたしは思う。わたしは考えを巡らせる。きっとわたしにはどこか重大な欠陥があるのだ。
「傷を舐め合うようなつもりはないけど、真知も寂しかったんじゃないかなって思う」
「……うん」
わたしはやっとの思いで頷いた。わたしはいつまでこの子を勘違いさせたままでいられるんだろう。それでもそれがこの子の支えになるなら、それでも構わないとわたしは思うのだ。

 


 

これはからっぽのハム子