彼女についての一考察

あんたってほんと、何考えてるんだかわからない。彼女が笑ったのでわたしもつられて笑うと急に真顔になり彼女は言った。そんなことないよ、と言ってまた笑うと、ほんとにもう、と怒った顔をつくってみせる。よくもまあそんなにくるくるよく表情を動かすことができるなあ。わたしは感心してしまう。彼女が怒った顔をくずさないので、ごめんごめん、とわたしは謝る。
「まあ、いいけどさ」
彼女は斜め下を見て言った。彼女のふせられたまつ毛に夕陽が当たってすごくきれいだ。
「ゆかり、顔にゴミついてる」
わたしは急に、彼女にさわりたくなった。オレンジ色に照らされた頬に、マスカラのたっぷりのったまつ毛に。それはきれいなものにさわりたいという単純な欲望だった。
「え、どこ」
自分の頬を触る彼女の手をよけ、わたしはそっと彼女のこめかみのあたりに触れた。わずかに汗でしめっていた。取れた? と彼女はわたしを見る。
「……見間違いだったみたい」
なにそれ、と彼女は言った。なにそれ、意味わかんない。わたしは彼女がわたしを信頼していることが嬉しかった。
「ゆかりはわたしのこと、嫌い?」
「え?」
なんでそうなるわけ?と彼女は呆れ顔で言う。わたしが彼女の顔を見て返事を待つと、嫌いじゃないけど、と彼女は呟いた。
「嫌いじゃないけど、あんたは何考えてるんだかわからない」
わたしはくつくつと笑った。だんだんおかしくなってきてしまいとうとうお腹を抱えて笑いだす。ちらりと彼女の方を見ると、不思議そうな顔で彼女はわたしを見ていた。

 


 

発売前に書いたもの