こわかったんだ

ねえ、このことをもし君に告げたら、君は笑い飛ばしてくれるかな?

ウェーブのある髪を高い位置で結って、髪とおんなじ色の瞳で。明るくて元気というのとは少し違うけれどいつもにこにこしていて、でも僕が思ったよりずっと色々な表情を持ってる。僕の弁をもってしても君の魅力は伝えきれないけれど、もちろん僕が言いたいのはそんなことじゃない。

僕は羽織ったコートの前を閉め、きらきら輝く街の明かりを見た。十二月。君と会ったのに、初めて君の部屋に行った後なのに、なんだかひどく心細い。本当はあの時、君の前で恥ずかしげもなく泣きたかった。子供のように、身も世もなく。けれど僕は自分の胸の底から湧き上がってくる恐怖に耐えられなかったんだ。それで「触って」と言った。あたたかくてやわらかい君の手。暗闇の中に、光がひとつ。気が狂ってしまいそうだった。

僕には好きとかいうことがよくわからない。けれど女の子たちは優しいから好きだし、順平は面白いから好きだ。もちろん、君も。……そこまで考えて僕は違和感を感じる。僕は君のことが、好き、なんだろうか。女の子たちや順平と一線を画した「好き」であることはちゃんとわかってるけど、君のことは、そんな一言で片付けていい感情ではない気がする。僕にはわからない。そうしておどろいたことに、たとえば誰かに、君と寝たいか?と問われても、僕はそうだよと即答できる自信はない。

「なんか、双子みたい」
その時君はにこにこしながら言った。僕は、え、と聞き返す。
「わたしと綾時くん」
僕は言葉がでなかった。かろうじて微笑みを返すと君もにっこりと笑う。君があの時本気で言ってくれていたのかどうかわからないし今更知る手立てもないけど、ともかくそんなことがあって、僕は……。

……ねえ、君と出会えてよかったと思ってるよ。君がどう思ってくれているかわからないけど、少なくとも僕はそう思ってる。なのに、僕はこんなに震えてる。ねえ……これからもずっと、君が笑っていられたらいい。僕は目をつぶり、微笑もうとしたがうまくいかなかった。もうすぐ真夜中だ。僕はベンチに座り、ポケットに手をつっこんだ。このことを言った時、君が笑い飛ばしてくれたらいい。どうぞ悲しんだり、怖がったりしませんように。

僕はきっともうすぐ全部思い出す。
記憶がひたひたと迫り戻ってくるのが、君が絶望するのが、僕はこわくてかなしくてどうしようもないんだ。

 


 

綾時コミュ見た直後に書いた