冬の銃左

「銃兎、朝だぜ朝」
 目蓋の裏に光が射している。大きく伸びをして背を丸め、何時だと思ってんだ、と俺は呟く。十時、と耳に届く不興げな声に、あと三十分、と返事をした。
「俺様が朝から会いに来てやってんのに寝る気かよ」
 寂しかったんならそう言え、と呟きながら寝返りをうつ。冷たい手で勢いよく頬を挟まれ、俺は驚いて目を開ける。ぼんやりとした視界にあいつの髪が、やわらかい雲のように見えた。
「……寒いだろ、暖房付けろ、あと眼鏡返せ」
 左馬刻は黙って俺の耳のあたりに手をすべらせる。ぞわりとした感覚に否応なく目が覚める。顔をひとしきり触ると、立ち上がって部屋を出て行った。俺は小さく舌打ちをして布団から這い出る。頭を抱えて立ち上がり、眼鏡を取り返しにふらふらと洗面所に向かった。


「何食いたい」
「肉」
 鞄を引き寄せ、昨日の昼に食べられなかったサンドイッチを取り出す。ハムサンドだった気がしたが卵だった。左馬刻に渡してやると、ちょっと見つめてから大人しく袋を開けた。
 ペットボトルのお茶もテーブルに置き、俺は着替えようと立ち上がってクローゼットを開ける。銃兎、と呼ぶ不満げな声に、左馬刻の方を振り返る。
「……何だよ」
 じっと見つめられ、俺は左馬刻の隣に座る。頬を撫で、そっと口付ける。俺に体重を預ける左馬刻の肩のあたりに手を回し、角度を変えて再び口付けた。普段わがままばかり言うのに、たまにこういう時があるのが、可愛い、と思う。
 シャツの下にそっと手をすべらせると、左馬刻がびくりと身をふるわせた。肩のあたりに髪が当たってこそばゆい。
「手、冷てえ」
「ちょっとくらい我慢しろ」
 ん、と小さく返事をする左馬刻の腰のあたりを撫でる。こいつもずいぶん冷えていると思ったが、もともと体温が低い男だったなと思い直した。
「肉食いてえ……」
「後で付き合ってやっから」
 言い、かさついた脇腹の皮膚をそっとなぞる。香水の匂いが淡く立ち上る。窓から差し込む朝の光が心地よかった。体重をかけてそっと押し倒すと、眩しい、と面倒くさそうに訴える。
「上乗るか?」
「……あれ疲れるからいいわ、お前全然いかねえじゃん」
 お前が下手なんだよ、練習しろ練習、とささやく。耳のあたりを舐めてやると、俺から逃れるように身をよじった。ゆるく抱き締め、追うようにして耳たぶを食む。んん、と甘い声を漏らすので、どうした? と尋ねる。
「それ、耳、やめろよぉ」
「おやおや、どうしてですか?」
「おっまえふざけんな、このクソウサギ、っ」
 聞こえませんねぇ、と耳元で囁くと、ふぁ、と気の抜けた息を漏らす。シャツをそっとまくり上げ、脇腹や胸のあたりを優しく撫でる。抱けば抱くほど、こいつの感じるところが増えていくのが愛おしかった。臍のあたりにくちびるを押しあてると、眼鏡外せよ、とかすれた声が耳に届く。
「嫌です、外すと可愛いヤクザちゃんが見えないので」
「この……っ、朝から元気過ぎなんだよ」
「お互い様だろうが」
 黙り込んだ左馬刻の、ほんのり温かくなった皮膚を撫でる。あったまったじゃねえかと小さく笑い、俺は左馬刻の下着に手をかける。まさか自分が休日の朝からヤクザを抱く人間になるとは思わなかった。そっと触れると身を震わせる左馬刻を、死ぬほど愛おしいと思った。

 

低血圧×低血圧 4歳下の構ってちゃんが可愛くてつい甘やかしちゃう話