ニブチン(尻派)vs 察してちゃん

尻が好きだと言うと軽蔑されそうだと思ったので腰が好きだと言った。その夜は彼もかなりその気だったので、しょうがねえ奴だなとかすかに笑みを浮かべるだろうと思ったのに黙り込んで目を伏せた。彼の腰に回ろうとしていた理鶯の手は行き場をなくした。

「左馬刻が応じてくれなくなった」
「……はぁ」
片手で眼鏡を上げ、銃兎はどうでもよさそうに返事をした。何か心当たりでもあるんですか、と理鶯の方を窺って問いかける。
「……思い当たらない」
「……そうですか」
「腰が好きだと言った」
銃兎は小さく息をつく。彼の表情が、会話が成立しない、と言っていた。しばらくして、それはその、夜のことですか、とたずねる。そうだ、と頷いて伏せていた目を上げる。銃兎は今度こそ興味のなさそうな表情をした。
「……心底どうでもいいですが、左馬刻は妙なところに拘ることがあるので……何かあったとしたらそれじゃないですか」
わかった、と返事をして礼を言うと、銃兎はひらりと左手を振った。

言われてみればいつも自分で脱ぎたがった。ジーンズのベルトに手を伸ばそうとすると、理鶯より先に彼の手がベルトの金具を外した。少しがっかりして彼の顔を見上げると、遅えよ、と勝ち誇ったように笑った。
シャツを脱がせられなかった時よりもジーンズを脱がせられなかった時の方がよりがっかりした。理鶯はジーンズと下着を脱がしたかったが、けれど下から脱がせるのはいかにも体目当てのようで嫌だった。服を脱がしたいと伝えたこともあるが百年早えよと流された。
ごわごわしたジーンズの上から触るのも好きだが、理鶯は薄い下着の上から撫でるのが好きだ。余分な肉が付いておらず、きゅっと締まって形がいい。何よりいいのは、理鶯が触れるといつでも彼が驚くところだった。ちょっと驚いて理鶯の姿を確認し、んだよ、と笑ったり、彼の気分によっては不機嫌になったりした。

食事を終えたあと、やりたい、と呟いた。オナホにでもハメてろ、というのが彼の返事だった。
どうしてこんなに怒っているのかわからず、理鶯は左馬刻の表情をじっと見た。左馬刻はふーっと顔を背けた。
「……左馬刻とやりたい」
「…………」
「左馬刻の尻を触りたい……」
呟いてから失敗したと思い、腰を触りたい、と言い直した。左馬刻の肩がわずかに震えていた。
「そこじゃねえだろ!! 下半身に脳ミソあんのかお前は!!」
左馬刻が理鶯の軍服と下着を剥ぎ取る。そのまま組み敷かれ、尻をぐっと割り開かれる。普段は隠れている部分に風が通る感覚がして、左馬刻の匂いがふっと漂った。

「左馬刻に初めて抱かれた」
「…………はぁ」
興味なさそうに返事をして、銃兎はちらりと理鶯を見た。
「どうせ腰じゃなく俺様を見てほしいとかだったんでしょう」
「うん」
「痴話喧嘩ならよそでやって下さい」
銃兎を見つめると、あなた達がこんなに続くなんて思っていませんでしたね、と小さく息をつく。
「……まあ、こんなに落ち着いた左馬刻を見るのは初めてですから」
そこは理鶯に感謝しています、と続ける銃兎を見つめ、理鶯は温かい気持ちになる。あのあと彼は、お前ばっか俺のケツを使って不公平だ、と口を尖らせた。左馬刻の行動と言動が食い違っていること、それが銃兎に把握されていることすら愛おしいと思うのは、惚れた弱みなのだと言わざるをえなかった。

 


 

入間と小官の若干の噛み合わなさかわいいなって思って書いた ファンブックでの衝撃は入間さんが左利きだったことです