花の下にて春死なん

細い髪に顔を埋める。す、と息を吸うと、かすかに石鹸のような匂いがした。顔をこすりつけるようにしながら吸った息を吐くと、わずかに首を傾けて身を動かした。
「軍人ってこういうの、やっぱすんのか」
彼の目線は壁に掛かった大きなテレビにあった。ふるい映画で、狙撃をするために何時間か同じ姿勢を保っているところだった。する、と理鶯は小さく答える。ふーん、と彼は感心したような声で呟いた。
目蓋を閉じて、彼の首筋の、やや薄いような皮膚の温度を感じ取る。ソファに座った左馬刻を後ろから抱えるのが理鶯は好きだ。大きな窓からたっぷりした日差しが差し込み、この部屋は冬も暖かいだろう、と思う。
「あれ、何時間くらい持つもんなんだ」
なんだか眠いような気がして、左馬刻のえりあしに再び顔を埋める。今日は小官が左馬刻を抱きたい、と呟くと、しばらくして、お前のチンポ入るの時間かかるからヤなんだよ、とふて腐れたような返事が返ってきた。
「なあ、軍ってどういう」
理鶯は黙ってリモコンに手を伸ばす。電源ボタンを押すと、左馬刻は映画の消えたテレビを見つめた。
「……いずれ、貴殿と」
一緒に暮らせたら、幸福だ、とささやく。左馬刻の動きが一瞬止まる。しばらくして、眠いんならベッド行けよ、と彼の声が無防備な耳に届く。
左馬刻が来てくれるのなら行く、と、頭の中に浮かんだ言葉を振り払う。このまま眠ったふりをしてみようか。それに彼は、気付くだろうか。黙ったままの左馬刻を抱きしめ、体重を預ける。あたたかくて眠くて、今死んでもいい、と感じる。こんなに静かな春を、理鶯は久しぶりに味わった気がした。

 


 

ARBサマトキハウスの間取りありがとうの話