リビドーを砂漠に置いてきた系ラスティ

俺を拾った女はしょっちゅう家に男を連れ込むので、俺はその度にテントの外に出ていかなければならなかった。
ことが始まりそうなのを察して自分からそっと抜け出す時もあったし、あるいはぼんやりとしていて、男に蹴り出されるようにして外に出ることもあった。夜の砂漠はおそろしく寒く、地面に転がると砂が口の中に入った。きっとあと二時間もすれば、ぼろ布にくるまって眠っている俺の肩を女がそっと叩くだろう。泣き腫らした目で、酒浸りのように嗄れた声で、入っておいで、と言うだろう。売女という言葉を覚えたのもこのころだった。俺は何も持っていない女を哀れに思っていた。この女と九つの俺は、同類だ、と思っていた。

文字を教えてくれたのはルドルフだ。風呂に入れてくれたのも剣を教えてくれたのも拾い食いはするなと叱ってくれたのも。
「じじい!」
その日の訓練を終えて部屋に戻ろうとしていると、正面からルドルフが歩いてくるのを見つける。俺はやおら抱きついて、ルドルフの胸と腰の間のあたりに顔を埋める。革でできた訓練用の、騎士団の鎧のにおい。
「元気がいいな、ラスティ」
ルドルフは俺の頭をぽんぽんと撫でた。次はいつ稽古をつけてくれんだよう、と俺は子犬のようにルドルフにまとわりつく。忙しいのだとわかっていても、俺はルドルフに構ってほしくて仕方ないのだ。ルドルフはしゃがみ込み、俺に目線を合わせる。次の遠征が終わったらだ、とルドルフは微笑んだ。
「カシミスタンの遠征、ちゃんとへばらず付いて来るんだぞ」
俺は、はい、と頬を紅潮させて言った。ルドルフとの遠征が誇らしかった。

何も持っていなかった俺に、何かを得る喜びを教えてくれたルドルフ。俺に与えたもの全てを奪っていったのに、何かを所有することに対する焼けるような渇望だけは残していったルドルフ。二十四の俺は、月明かりしか差し込まない暗い部屋で女を抱きながら、所有できない、とぼんやり思う。俺はこの女を所有したいのに、砂漠の砂が両手からこぼれ落ちるように、捉えることができない。俺は本当にこの女を抱いていたいのかわからなくなる。喉の渇きを感じながら、本当はルドルフを所有したかったのかもしれない、と思う。俺はあのどす黒いような火の海で、ルドルフの背を追って駆けてしまいたかったのだ、と。九つの俺を拾い、母親ごっこをしていた売女を思い出す。俺はもはや、あの女と同類なんかではなく、自分はなおひどい状態にあると感じる。持つことを知らないままであったなら、何かを失うことも、所有に対する飢えるような欲望も味わうことはなかったのに。俺は女の中に精を放つが、すぐにそれはむなしく流れ出ていく。明日になれば、きっとこの女の顔も忘れてしまうだろう。

騎士団長の優男が、第九小隊という精鋭を組むと言う。俺は話を上の空で聞きながら、俺の記憶の中で笑う騎士団長はどうしたってルドルフだ、と苛立つ。憎い、憎い裏切り者のルドルフだ。聞いているのか、と騎士団長は言う。俺は背を向け、ひらりと手を振った。全くお前は、と騎士団長は自分のこめかみに手をやる。
「……昼までには戻ってこいよ、ラスティ」
へーいへい、と俺は軽口を叩く。昼寝をしようか、朝から女でも引っかけようか。昼も何も、戻るも何もない。どのみち俺は、あの砂漠に捕らわれたままなのだから。

 


 

ちょっと女を下に見てるよなラスティな