人殺し

私には緑色の血が流れているに違いない。それとも青、さもなくば黒か。ともかく人間じみていない色だ。それは私が人間ではないことの証明になる。だって私は、人間ではないのだ。けれど私がたとえばあいつとおんなじ機械だとかそういうことではなく、それならばそれ以外の人ならざる者なのかと言われれば全く違う。私はごく普通の人間から生まれた。あの日どこかから迷い込んできたあいつが私を生んだそのふたりを殺すまで、私は人間だったのだ。「殺して!」私は叫んだ。もう動かない四肢をやみくもに動かそうとしながら。痛かったし、恐ろしかった。私が今朝オイルをさしたばかりのあいつの体がギシギシ軋む音が聞こえた。殺した人間の返り血を浴びて体が真っ赤に染まったと噂されたあいつも、もうつまらないただのがらくたなのだった。「殺してよ!」私はもう一度、あらん限りの力を振り絞って叫んだ。私がふらふらと家に入ってきたその優秀な機械に、初めて命令をした時みたいに。おとうさんとおかあさんを、ころしてよ。両親にひどく叱られ自室で膝を抱えていた私。まさか本当に殺してしまうだなんて思ってなかった。私はあいつのためではなく自分の精神の均衡を保つためにあいつに命令をし続けた。そうして私は人間ではなくなったのだ。「殺してったら」弱々しく、哀願するように私は呟いた。派手な音が聞こえてずっと目を閉じていた私は目を開けた。視界の端で、あいつがスクラップになる。うすく笑って自分の頬に触れて流れるあたたかなものをすくい取った。証明するかのように鮮やかな、赤。私はもう一度、今度はゆっくりと目を閉じた。

 


 

まあそうなる