名前

なんて呼べばいい、と言った後でその言葉のいやに子供じみた響きに驚いた。はじめて友達ができた小学生みたいだ。もっとも、わたしには友達と呼べるような人は今までほとんどいなかったから間違いではないのかもしれないけど。
「ゆかりちゃん?伊織君みたいにゆかりッチとか」
冗談めかせて付け足した。はは、ゆかりッチは勘弁だわ、と彼女は笑う。
「ゆかりでいいよ」
うすく笑って彼女は言った。ゆかり。その名前という言葉の意味、重みにわたしは訳もなく怯んだ。
「行こ、真知」
うん、と言った返事は一拍遅れていた。こんな風にごく自然に、躊躇なく自分を預けることができるだなんて。わたしは彼女の強さのようなものにほんとうに感心してしまうのだった。

 


 

発売前に書いたもの