夜空はいつでも

彼が泣く。細い身体にこの世の悲しみを溜め込んで、どこからそんな熱量が出るのだろうかと、理鶯はいつでも思う。そっと背を撫でると大きくしゃくり上げる。頬の寄せられた胸のあたりが熱い。理鶯に脆い部分を見せるようになったのはついこの間だが、それを目の当たりにしてしまえば、彼の全てをもっと前から知っていたというような気がした。
彼は力無く、拳で理鶯の胸を打つ。彼の纏う煙草と血の匂いは鎧だった。涙を流す度に、確かに世界は終わっているのだと思う。理鶯は彼の背にそっと手を置く。泣き疲れ、眠って起きれば朝が来ている。今日は起きていよう。大人しくなった彼をベッドに横たえると、しばらくして肉体がゆっくり弛緩する。乱れた濃い赤のシーツに半分沈んで、丸まった彼の背がかすかに上下する。その様子を眺め、理鶯は寝室の窓を開けて街を見下ろす。何もかもが怖くて悲しいというのは、理鶯にはよくわからない。それでも彼が本当に苦しそうなので、理鶯はそれを全て取り除きたい、と思う。彼の涙、豊かで長い睫毛、頬に落ちる薄暗い影。星も月もない空を見上げ、理鶯は彼の幸福を祈る。彼の涙があんなに美しい理由がなんであるのか、理鶯はもう気付いていた。

 


 

早く前に進んでくれ