彼女と私と道化

ユーリの髪はとてもきれいだ。徐々に朝を迎える部屋、横を向いてかすかに寝息を立てているユーリ。きれいなものに触れたくてユーリの髪をそっと触ると、ユーリは言葉にならない声を漏らし私を抱き寄せた。
「おはよう」
寝起きで少し不機嫌に聞こえる声。おはようございます、と私は答える。彼女は私を軽蔑するだろうか。そんなことばかり考えながら。

「エステル」
私の名を呼び、駆け寄ってくる人影。あんた、また本読んでんの、と言うので私は微笑む。
「おもしろいですよ」
へえ、とあながち生返事でもなさそうに頷く。この子は研究者だから本も好きに違いない。それに、他の人の話は適当に流すことがあっても私の話はちゃんと聞いてくれる。どちらかというとおっとりしていつも流される側の人間である私にとって、それは安心できることだった。
「そろそろ出発するってさ」
わかりました、と言って私は土で汚れたお尻をはたく。ほんの少しの嘘。木漏れ日がちらちらと色を変える気持ちのいい朝だった。

彼女がユーリを意識している、ということに気付いたのは少し前のことだ。
私はそれに気付いた時、ああ、と思った。ああ、やるしかない、と。美しい少女である彼女を、彼女のままでいさせたかった。そのために私が汚れるのも構わなかったし、それに何より、私は彼女のことが好きだった。
後悔はしていない。だって方法はこれしかなかったのだ。そのためにユーリを、彼女を、裏切るような形になっても。
「何笑ってんのよ、エステル」
気味悪そうな顔をつくり彼女は言う。いえ、と私は答え、またおかしくなってきてしまいくつくつと笑う。ユーリは私を愛している。気の毒ではあったが私はユーリを愚かに思った。愚かな、女の子に人気の、私のユーリ。

私、ユーリと寝たんです。そう言ったら彼女は一体どんな顔をするだろう。

 


 

百合でよくあるやつ