ギャラベルさんがかわいい(?)話

この頃はクリスティアの後ろをついて歩くのにも慣れた。僕よりちょっと早足だけれど、僕が声をかけるとちゃんと止まってくれる。さりげなく歩調を緩めてくれる人もいるけど、それはいかにも気遣われているようで好きじゃない。クリスティアはいつも、僕が息を切らしているなんて思いもよらなかったみたいな顔で振り返る。だから僕は安心してクリスティアの後ろを歩くことができる。
でもその時は、僕が何も言わないのに彼女が立ち止まった。クリスティアの背中におでこをぶつけてしまい、僕は彼女を見上げた。何だよ、と言おうとすると、クリスティアの右手が僕の口を塞いだ。
そこは会議室の前だった。部屋の中から二、三名の男の声が聞こえる。誰かの噂話をしているようだった。既に扉の隙間から部屋の中を覗いているクリスティアを、半ば呆れたような気持ちで眺める。手招きされ、僕も少しだけ開いた扉にそっと顔をくっつけた。

「そういや、こないだの中央での会議」
「ああ、騎士団長も来てたんだろ」
そうなんだよ、と返事をした男が顔を伏せた。まずいことを言う時のように周囲を見渡す。その騎士団長が寝言で会議に返事しててさ、と低めた声は僕の耳にはっきり届いた。
騎士団長って誰、とクリスティアに小声で尋ねる。クリスティアは微動だにせず、返事もないので僕は諦めた。
「誰も何も言えないし、妙な空気になって……会議が終わった時には起きてたけど、あの騎士団長がうたた寝なんてしないだろうし、俺は自分が白昼夢でも見たんじゃないかって」
「……そうだな、疲れてんだよ、今日は早く休んだ方がいい」
神妙に頷き、誰にも言うなよ、と会議に参加した男が念を押す。僕たちのいる出入り口に向かって来るので、僕は歩き始めたクリスティアの背を小走りに追った。

「……聞いたか、リーンハルト」
うん、と僕は返事をする。聞いたけど、何を思えばいいのかわからなかった。
「まさに、寝る子は育つ、ということだな」
振り返ったクリスティアの表情が満足げなので、よくわからない冗談を聞かされた気持ちになる。騎士団長って大きな人なの、とたずねる気も失せてしまい、そうだね、と頷いた。クリスティアの選ぶ言葉はいつもちょっと違うから、きっとこれも違うのだろうと思う。クリスティアが歩調を速め、僕は慌てて彼女の背を追った。

 


 

ドヤ顔するクリスティアは可愛い