あまり寝ない話

ブラッドはあまり寝ない。夜更けと共に床につき、夜明けと共に目を覚ます。報告書に目を通しているうちに、しらじらと明らむ東の空をぼんやり眺めることもあった。かつてはきちんと眠っていたはずだったが、この砦を築いてからそうせざるを得なくなった。それ…

セカンド・プロポーズ

隣に寝そべっているジャスティンが、真剣な表情でブラッドの頬に手を伸ばす。目を上げたブラッドはジャスティンの瞳を見る。仄青い光がかすかに揺らめき、ブラッドは少しぼうっとしてそれを見つめた。「返事さ、いつでもいいから」ジャスティンの手のひらがブ…

与えるものは与えられる

あんたに名前で呼ばれるのが好きだと呟いた時、彼は返事をしなかった。おかしなことを言ってしまったと怖くなり、前を歩く広い背中を見つめる。聞こえていなくてよかったと思うと同時に、聞こえないふりも優しさなのだと理解して俺は顔を伏せる。この人のよう…

はじめての飲酒

部屋に戻ったのは夜も更けた頃だった。真っ暗な部屋で、俺は背負っていた人間を床に横たえる。部屋の灯りをつけようとして離れると、んん、とかすかに声を上げた。「隊長、ここ背中痛いよ」俺は灯りをつけそびれる。小さく息をついて、台所へ向かいながら口を…

末永く爆発しろ

隣に座っていたジャスティンが肩に顔を埋めるので、随分長く本に没頭していたようだった。自分は本を読み終えてしまい、退屈で構ってほしいのだろう。俺は微笑ましいような半ば呆れたような気持ちになり、「他の連中の前でこういうことをするんじゃないぞ」と…

これが愛だと言わせてみせる

「じゃあさ、父さんって呼んでもいいの」隊長が目を上げる。返事をしないので、俺が発した言葉はぽんと宙に投げ出された。俺たちはこのあいだ家族になった。たまたま生まれ落ちた場所としてではなく、自分たちが望んで家族になったのだ。「いつまでも隊長なん…

求めよさらば

「今日一緒に晩飯作りたい」ブラッドは座ったまま顔を上げた。立っているジャスティンが真剣な表情でブラッドを見下ろしていた。窓から外を見ると夕刻らしく、日は落ちて遠くから鳥の声が聞こえていた。机で書きものをしていたブラッドが、なぜだ、と問いかけ…

きっと、恋だった

女王陛下が子を産んだ。窓から月明かりが差し込んでいた。人気の無い王宮の廊下を小走りに駆け、向かう先は彼らのもとだ。星の瞬くしずかな明るい夜で、絨毯を踏みしめるかすかな自分の足音さえ耳に届く気がした。伝令をよこしてくれたのは彼だ。ああ、幸せな…

アシュレイさんとウルフガングさん

あの時、追いかけてきたのがあいつだった。空が高く晴れた日だった。入学式を終え教室に入ると、同級生数名の輪に手招きされる。当たり前だが全員が初めて見る顔で、俺は当惑した。教師が来るまで読みたかった本をそっと鞄にしまった。名前は、と赤い髪の同級…

友達をやめた日

友達に会いに行くのをためらう日が来るなんてロイは思わなかった。忙しいかもしれないとか、迷惑かもしれないとか、あるいはもっと単純に、相手は自分に会いたくないかもしれないとか。そんな相手ではないとちゃんと思っていても、もしも会いたくないそぶりを…

その、名を呼ぶ声を

黒が似合うと言ったのは父さんだ。俺はその時、雪の中に埋めた魚を夕食のために取りに行こうとしていたところだった。俺の背中を見ながら父さんは言った。おまえは黒が似合うな、また背が伸びたんじゃないか?俺はもちろんまだ伸びるつもりだと笑い、ちょっと…

ブラッド隊長プレゼン全文

※プレカトゥスの天秤はサービス終了しました。運営の方々お疲れ様でした! ありがとうございました!※リベル最終章公開前に書いたよ!!!(重要事項)プレカトゥスの天秤未プレイの方向けにブラッド隊長のかっこいいところを書くよ。未プレイの方向けにネ…