与えるものは与えられる

あんたに名前で呼ばれるのが好きだと呟いた時、彼は返事をしなかった。おかしなことを言ってしまったと怖くなり、前を歩く広い背中を見つめる。聞こえていなくてよかったと思うと同時に、聞こえないふりも優しさなのだと理解して俺は顔を伏せる。この人のようになりたいと思った。

「ブラッドに名前で呼ばれるのが嬉しかったんだ」
彼は本から目を上げ、俺の話を聞いていることを示した。
「思い出す男の声、俺の名前を呼ぶ声があんたになるから」
さびしくも怖くも悲しくもなく、静かな気持ちで俺は彼を見つめた。彼は小さく息をもらして笑う。ゆるんだ目元は優しかった。
「それでおまえは俺を名前で呼ぶようになったのか」
驚いて返事が遅れた。彼が面白がるような目で見つめているのがわかる。この人には敵わない、と思いながら俺はゆっくり頷いた。

 


 

末永く爆発しろ