ジャスティンとブラッド

「髪を切れ」
ブラッドは呟いた。砦に来た時よりも、ジャスティンの髪が随分伸びている。伸びた髪に頓着しない男だというのが少し意外だった。
ジャスティンは今気付いたように頭に手をやる。了解、と返事をして目を伏せた。ブラッドは何の気なしに続けた。
「伸ばして結ぶのでもいい、戦闘に支障の出ないようにしろ」
「切るよ、……ただちょっと、億劫で」
億劫、と彼の言葉をブラッドは頭の中で転がす。ではやはり一つに結ばせようかと考えた。髪を伸ばして結んだジャスティンは想像がつかなかった。
「貴様はもう戦闘員だ、住民を守ることを第一に考えろ、何なら今から俺が切ってやる」
ジャスティンは言いづらそうに斜め下を見た。苦手なんだ、とかすかに笑みを含んだ声で呟く。
「顔の横でハサミが動くだろ、緊張するから、いつもギリギリまで切りたくなくて」
ブラッドは押し黙った。ジャスティンに背を向け休憩所に向かう。マグカップにコーヒーを注いで戻ると、ジャスティンは二つのマグカップを手にしたブラッドを不思議そうに見た。
「飲め、落ち着く」
マグカップに口を付け、ジャスティンは息をもらして笑った。にが、と言うので、ブラッドは自分のマグカップに口を付ける。何ということも無い普通のコーヒーだと思った。
「隊長、今度俺がコーヒー淹れてあげるよ」
「誰が淹れても同じだと思うが」
「隊長、嘘だろ、ふ、ふふ」
何が楽しいのか、肩を震わせていたジャスティンが背を反らせて笑い始める。無防備な若者を横目に見ながら、こいつが眠った後にこっそり切ってやろうと思った。そう思うと愉快な気持ちになってきて、ブラッドも頬を緩めて目蓋を閉じる。次に目を開けた時、ジャスティンはきっともう無防備な様子ではないのだろうと思った。この男が淹れるコーヒーは、一体どんな味がするのだろう。

 


 

被虐待児ネタ