朝焼けのジェリーダ

踏みしめる固い雪は命だった。身を切るような寒さに、コートの首元に顔を埋める。たどり着いた街の外れに見えた人影は、僕の想像していた人ではなかった。
「……エイデシュテット」
僕をちらりと見て、再び眼下に目を戻す。夜明け前の街は死んだように静かで、何の意識もなくそう思ってしまうことが悲しいと思った。
「セラは」
「帰した」
僕はレナートの隣に立った。そう、と返事をして目を伏せる。セラが時々ここに一人でいることを、レナートも知っていたことの意味を考えた。
「セラフィーナの様子はどうだ」
僕はそっとレナートを窺う。横顔はセラによく似ていた。
「夕食、時々残してる。笑う時無理してる」
レナートは黙っていた。レナートはどう思う、と僕はたずねる。しばらくしてレナートは口を開いた。
「あいつは俺には何も言わない」
「僕にだって言わないよ」
「お前のように、あいつの変化に気付く鋭さは俺にはない」
僕はレナートを見つめる。目線は同じ高さにあった。僕を見ていたレナートが、ふいと目を逸らした。
「お前はセラフィーナによく似ているから分かるのだろうな」
僕は息をついた。眼下に臨んでいる街がしらじらと明らむ。東の空から、少しずつ日が昇っていた。
「――エイデシュテット、俺たちで」
「ルカ」
レナートは僕を見た。朝日に照らされた赤い瞳が、意志を宿してきらめいた。レナートの目に映る僕もまた、意志のこもった瞳をしているのだろうと思った。
「……セラフィーナを支えるぞ、ルカ」
「言われなくてもそのつもりだけど」
見下ろす街から、人々が動き出す気配を確かに感じる。セラがつくり上げるこの国を、僕とレナートで守り抜くと決めた。

 


 

少年少女前を向く