雨降って地固めたい日の黒 解説

雨降って地固めたい日の黒 の解説。

前半は左馬刻視点。

「破る可能性のある約束」ここでは今晩部屋で理鶯と会うこと。左馬刻は明日死ぬかもしれないヤクザ者で、おまけに今日はお仕事の日です。
「白だと血が目立つ」「一雨来る前に終わらせたい」現実的な理由です。書き手側の願望や都合*1も含まれています。
「後処理を舎弟に任せ」「遅くなっちまった」人を殺しました。普段より手間取ったようです。理鶯と約束をしたことが心にあったからです。
「自分が今一番欲しいもの」理鶯のちんぽです。
「犬じゃねんだからよ」「自分で言ったことがなんだか面白い気がして静かに笑う」左馬刻にとって、理鶯は従順な手下です。犬という比喩がぴったりで面白かったのでしょう。
「彼が全体重をかけていたら起き上がることはできないだろうが、そうではなかったので瞬時に揺らめいた不安が収まった」理鶯は左馬刻よりも物理的な戦闘能力が高いです。その気になればいつでも左馬刻を殺すことができるので、本来なら左馬刻にとって恐ろしい存在です。
「無機質な部屋の明かりの下で、普段より青がくすんで見えた」「バカにしてんのかテメエは」理鶯が左馬刻を見ていないことを理解しました。穴とか女とか、そのあたりの左馬刻の軽蔑する対象です。
「こんなに恐ろしいこと」信じていたものに裏切られることです。
「約束なんて慣れないことはしたくなかった」ジンクスを信じているとそれっぽいなという書き手側の都合*2です。
「彼がここにいなかったら死ぬような気がした」死ぬというのは左馬刻がです。
「お前インターホン見えないのかよ」インターホンが目に入らないくらいに動揺しています。
「風呂入れ、その匂いのままここまで来んな」返り血を浴びた黒いシャツから漂う匂いです。常識的に考えて自分の家に血生臭いものを入れるのは嫌です。
「他人の家で入浴するというのはなんだか落ち着かなかった」銃兎=長い付き合いである程度考えることが分かる男 とはいえ、左馬刻はヤクザです。いつどこから殺されるか分からないので他人の家で全裸になるのは怖いです。
「よそゆきの声だから、左馬刻には関係のないこと」警察官の仕事のことです。
「何かあったんですか、と心配そうな声を出す彼の背中を見つめ、左馬刻は泣き出しそうになる気持ちをこらえた」銃兎がかばってくれたので嬉しかったということです。
「頭を拭いていると、暗い気配が少し薄らいだ気がした」風呂に入ってさっぱりしたということです。
「酒でも飲むか」「いらね」銃兎は左馬刻とのコミュニケーションに酒と煙草を頻繁に使います。煙草よりも酒の方が健康的なので、酒を選びました。左馬刻は銃兎が自分のご機嫌を取っているのだと思って拗ねました。
「彼は眩しいものを見るように顔をしかめる」銃兎は痛々しい気持ちです。眩しいものというのは左馬刻の願望です。
「お前のそんなひでえ面、久しぶりに見たわ」「左馬刻の胸のうちに不穏な何かがざわめく」銃兎は大荒れの時期の左馬刻のことを言っています。左馬刻は自分が銃兎にそんな風に思われていたということが屈辱です。
「お前の服暗えな、ネズミ色かよ」実際はダークグレーですが、左馬刻にはネズミ色に見えます。書き手側の都合*3もあります。
「理鶯の奴相当参ってたぞ」理鶯は左馬刻が銃兎を頼るということを知っているので、銃兎に電話をしました。銃兎は理鶯と左馬刻が付き合っていることを知っています。同時に非常に危うい関係だと思っています。
「自分の声がひび割れていて、その響きの暗さにうんざりした」左馬刻は自分が理鶯を求めているということを認めたくありません。
「何でもいいが、謝ったらちゃんと許してやれよ」「俺は寝る」銃兎は、理鶯は謝ることのできる男だと思っています。左馬刻が裏切りを許せない男だと知っています。寝るというのは眠るということです。
「立ち上がった彼をぼんやり眺める」左馬刻は、今日は銃兎に朝までそばにいてほしいです。
「左馬刻の視線に気付いた」「お前らと違って忙しいんだよ」銃兎は自分が左馬刻の嫌な部分に引きずり込まれることを恐れています。実際に明日も出勤なので眠いです。

後半は理鶯視点。

「朝になっても左馬刻は帰って来なかった」理鶯は朝まで左馬刻を待って起きていました。
「肺を満たした空気があまり綺麗ではない気がして」「胸が静かに圧迫される錯覚に陥った」理鶯は森で生活しているので、都会の空気は汚れていると感じます。胸というのは肺を示している他に、比喩も含んでいます。
「殺風景な部屋は、彼がいないとがらんどうだった」理鶯は左馬刻がいない状態の左馬刻の部屋を初めて見ました。理鶯は普段、左馬刻しか見ていないことを示しています。
「けれど今理鶯が眺める左馬刻の部屋は、彼そのもののようで薄ら寒かった」理鶯は左馬刻を、常に飢えて何かを欲しがっている男だと思っています。それがどうしたら満たされるのか、満たされたら左馬刻はどうなるのか分からなくて恐ろしいということです。
「銃兎の部屋のインターホンを鳴らす」理鶯はインターホンに慣れています。礼儀正しくあまり動揺しない男です。書き手側の都合*4も含まれています。
「来ると思いましたよ」「でも今はいません」銃兎は理鶯を、MTCのメンバーとしてやっていける男かどうか値踏みしています。
「銃兎の様子に挑戦的な気配を感じ、理鶯は彼から目を逸らすことができなかった」理鶯は驚いています。昨日電話した時、左馬刻はここにはいないと銃兎は言っていました。銃兎が左馬刻をかばって嘘をついたということを理解しました。
「朝起きたらいなくなっていました」「澄ました声を出す」昨日まで銃兎と左馬刻は一緒にいたということを嫌味たらしく言っています。
「理鶯が何も言えないでいると、銃兎は暗い瞳を理鶯に向けた」理鶯は動揺しています。銃兎は理鶯が動揺しているように見えず、信頼できないと思いました。
「理鶯の知らない何か」理鶯が彼らと知り合う前の出来事のことです。
「左馬刻はまるでガキです」子供ということです。餓鬼とかけているわけではありません。
「いかにもいやらしく眉根を寄せる」「いえ、あなたで二人目でした」銃兎にとっての、理鶯への最後通牒です。信頼に足る行動をする人間かどうか試しているということです。
「銃兎をそれ以上見ることに耐えられず」銃兎と話している時間が勿体ないということです。理鶯は、もう左馬刻が死んでいる可能性もあると思いました。
「心臓の鼓動が速まるのがなぜなのか、理鶯はわからないふりをした」理鶯は、人が死ぬ、人を殺すということを知っています。それは文字通りの終わりです。理鶯は分からない方がよいということが存在すると知っています。
「汚れた空気を思いきり吸い込む」理鶯は、左馬刻や銃兎の吸っている空気を取り込みたいと思っています。
「深呼吸をする度にどんどん呼吸が浅くなる気がして」「自分は彼の何を知ったつもりでいたのだろう」求めるほどに飢えることがあるということを、理鶯は体感しました。理鶯は左馬刻を満たすことができるのは自分だけだと思っていましたが、そうではなかったことを知りました。
「彼が理鶯の前に現れたのはそれから四日後の夜中だった」理鶯は左馬刻の家の前で、起きて左馬刻を待っていました。
「その時理鶯はぼんやりとしていて、とうとう自分は死んだのだと思った」眠くてうとうとしていたということです。寝起きでなんだかよくわからなくなっています。
「左馬刻を待っていた」「確かな彼の気配に、これは生きた現実だと確信した」理鶯は、左馬刻と生きて会いたいです。理鶯と左馬刻が生きていることを示しています。
「座り込んでいる理鶯の横を無感動に通り過ぎ」左馬刻は理鶯を許していません。
「お前は俺がどうでもいい奴にもほいほい股を開くと思ってんだろ」左馬刻は、リーダーだからとか性欲の発散手段としてではなく、左馬刻そのものとして理鶯に求められたいということです。
「震える彼の声に、底の見えない危うさを感じた」「失敗は許されないのだと理解した」左馬刻がどのタイミングで、なぜ暴力を振るうのか、理鶯にはわかりません。今理鶯が失敗をすると左馬刻か理鶯が死ぬと思いました。
「小官は左馬刻の全部を独り占めしたい」理鶯は自分が左馬刻の過去に嫉妬したことを言っています。
「彼が何も言わないので、理鶯は何かに追い立てられるように続ける」理鶯は自分の気持ちが左馬刻に届いてほしいと思っています。
「今、左馬刻を満たすのは小官の役目だ」理鶯は、左馬刻のために死ぬ覚悟を決めました。
「からっぽの部屋に彼がなじんだら、その時に世界が終わると思った」比喩です。世界が終わるというのは、左馬刻が死ぬということです。
「喉が渇いたら教えてくれ、危険な任務の時は呼んでくれ、食料が尽きて、腹が減ってどうにもならなくなったらその時は」理鶯の肉体を食べて左馬刻の糧にしてくれということです。それを理鶯が望んでいます。
「その瞳は生き生きと燃える赤だった」左馬刻が理鶯の言いたいことを理解したということを示しています。
「そっから先は許さねえ、二度と考えるんじゃねえぞそんなこと」左馬刻は理鶯を恐れました。左馬刻は失うことを極端に怖がります。理鶯の肉体を食べるということは、理鶯を失うということです。
「疑ってすまない、と途切れ途切れに絞り出す」「わかりゃいいんだよ」左馬刻は理鶯を許しました。理鶯を失うのが怖かったからです。
「キスしてもいいか」「いちいち訊くなバカ」理鶯は左馬刻に許されたいです。左馬刻は自分が理鶯を求めていることをわざわざ確認したくありません。
「その黒いシャツ、とても良いな、新しいものか?」黒いシャツは返り血を浴びたシャツとは違うものです。左馬刻は最初の黒いシャツをどこかに捨てています。書き手側の都合*5もあります。
「お前さ、マジで普段どこ見てんだよ」「左馬刻だが」左馬刻は理鶯に、自分のシャツの色の変化に気付いてほしいと思っています。理鶯は最初の夜、血の匂いが気になってしまったので気付きませんでした。
「可愛いから今日は抱かせてやるよ」左馬刻は、理鶯が常に左馬刻を抱きたいと思っている節があります。
「彼が今、生きてここにいることが、ただひとつの現実だった」この時の理鶯にとって、過去や未来は存在しません。今と今の左馬刻を理鶯は求めています。
「こら理鶯、眠いふりしてんなや」左馬刻は理鶯に抱かれたいです。
「……三日三晩、貴殿を待っていたからとても眠い」事実です。理鶯は左馬刻がいればよいということです。
「しょうがねえ奴だな、そういうことにしといてやる」左馬刻は常に理鶯より上の立場でありたいです。許しを与える側でありたいと願っています。
「ひどく安らかだった」左馬刻が満たされていることを示しています。
「銃兎、仲直りした」理鶯は、銃兎に言いたいと思ったので言いました。
「電話の向こうは喧噪に満ちていた」「知ってるわいちいち教えてくんな」銃兎は勤務中です。忙しくて苛々しています。どうなるかは銃兎にもわかりませんでしたが、理鶯の声を聞いたら安心して気が緩みました。
「お前だって二人目は不満だったんだろが」銃兎は、左馬刻と理鶯は似た者同士だと思っていました。それを確信しました。
「銃兎、カルシウム不足か」「は? ……ああ、元がこっちなんだわ」銃兎にとって、理鶯はまだ100%信頼のできるMTCのメンバーではありませんでした。だから今まで理鶯に対しては敬語でした。
「理鶯はうっすら笑みを浮かべる」「彼らに自分が自然になじむことを想像した」理鶯は、左馬刻と銃兎と一緒に全てを手に入れることを想像しました。理鶯はそれが単純に面白かったのでしょう。
「あんま左馬刻を追い詰めんなよ、今それができるのはお前だけだからな」追い詰めるというのは、左馬刻を殺す、または死なせるということです。実際は他の要因もありますが、銃兎は理鶯を信頼した上で理鶯のやる気を出させたいと思っています。
「善処しよう」理鶯の誠実さを示しています。
「生きることと死ぬことは、そう違わないのかもしれないと考えた」「本当の恐怖とは何だろう」理鶯は今まで、自分が死ぬことが一番の恐怖だと思っていました。今は左馬刻のために死ぬことが怖くなくなりました。
「そんなものが存在するとは、今の理鶯には思えなかった」理鶯が文字通りの無敵になりました。知らないということや、ひとつだけを信じたということは、怖いものがないということです。

*1 不安感を煽ります。「白」と「血(赤)」、「雨」の前に「終わる」。書き出しからこれだとなんとなく嫌な展開を予感します。
*2 ジンクスは、過去の自分の経験から未来を予測するということなので、なんだか後ろ向きです。過去を見ているとか過去を引きずっているイメージです。
*3 ここまでで左馬刻の考えていることが暗い印象です。その左馬刻が「暗い」「ネズミ色」と表現することによって、ふーんとなります。
*4 左馬刻にはインターホンが見えていませんでした。理鶯にはインターホンが見えます。あれっと思います。カタカナの言葉は目立つので印象に残りやすいです(多分)。
*5 最初の黒いシャツは左馬刻にとって忌まわしい出来事の象徴です。それを左馬刻は捨てると思います。それでも他の色を選ばない(また元の場所に戻ってしまうというような)左馬刻のどうしようもなさを表しました。

お粗末様でした! こんなことを考えて書いておりました。さとみは本当に左馬刻はH歴において生命力最弱レベルだと思っています 理鶯がんばってね お願いだよ

 


 

2020年1月当時さとみの周囲の一部がざわついた解説